殺虫剤のCMはゴキブリを擬人化しないでほしい

テレビを見ていたら、「ゴキブリレストラン」という殺虫剤のCMが流れた。

外はいい天気。店頭に「肉も野菜もデザートもあります」とメニューが掲示されたレストラン(路面店)に、擬人化されたゴキブリが客として笑いながら入っていく。レストランはゴキブリ客でいっぱい。家族づれも多い。お父さんゴキは「僕はステーキ」、お母さんゴキは「私は野菜ね」、こどもゴキは「ぼくデザート!」と、自分の食べたいものを注文している。なぜならここはレストランだから。

一家そろって楽しい食事が始まる。しかし、次の瞬間に画面が暗転してパパもママもこどもも息絶えてしまう。他のテーブルの客も体をケイレンさせている。おいしいごちそうには毒が盛られていたのだ。フラフラになりながら巣までたどり着いた一匹のゴキブリも、帰宅するとともに絶命。さらに巣にいた家族ゴキも、さらに妊婦ゴキのおなかの中にいた卵も一網打尽に殺されてしまう。なぜならそれは殺虫剤だから。

ゴキブリの大好きな、肉、野菜、デザートの3種類のエサで強力に誘引することをアピールして、CMは終わる。

見終わった僕は、なんだか自分が罪深き人間のような気がしてきた。擬人化されたゴキブリの楽しい家族のだんらんが一瞬にして地獄図に変わるシーンはかなりグサっときた。たしかに僕はゴキブリを見つけるたびに殺しているわけだから罪深いんだけど、共犯者である殺虫剤メーカーが、顧客でありゴキブリとの戦いの最前線に立たされる当事者である僕にそんな事実をつきつけてくれなくてもいいじゃない。ゴキブリを殺す自分の正当性を疑わせるようなことを言わなくてもいいじゃない。

というわけで、ゴキブリは擬人化じゃなくて記号化の方向で、よろしくお願いします。