「あなたは2200年の人たちにどんな思い出を残しますか」

リクルート主催の「エンジニア適職フェア」に行ってきた。
転職を考えているわけではなくて、目当てはMIT教授の石井裕先生の講演。あと、事前登録するともらえる500円分のQUOカード


石井先生が目あてだったけど、でもほとんど石井先生のことは知らなかった。
事前に知っていたのは

  • MITメディアラボの教授
  • NHK「プロフェッショナル」に出たらしい(見てない)
  • Macユーザー
  • 「タンジブル・ビット」(さわれるビット)というものを研究しているらしい

ということだけだった。


講演会場に行くと、石井先生はプレゼンの準備をしていた。自信があふれていて、「できる人」「頭がいい人」オーラが出ていた。


お話が始まる。


最初は「なぜMITに行ったか」という転機の話。
80年に電電公社に入って、インターフェースの研究をしていた。遠隔地にいる2人がお互いに透明の板に向きあっているように共同作業できるClearBoardというものを作ったら、MITのアラン・ケイに「それを発表しにきてくれ」と招待された。で、発表に行ったら、休憩時間にアラン・ケイニコラス・ネグロポンテの2人に「MITに来ないか」と誘われた。10分だけ迷った。MITはとても厳しい世界で、数年のうちに世の中に新しい流れを作らないと生き残れないと知っていたから。でも、頂上を目指すなら険しい道のほうが早くたどり着けると思って、MITに行くことにした。
MITに来たら、ネグロポンテに「Reboot(再起動)しろ」と言われた。「これまでと違うことをしろ。人生は短い。再起動して新しいことをやる贅沢を楽しめ」と。
メディアラボはアトリエ的、スタジオ的な文化。自分の考えたことをすぐに形にして、周りの人にみせて、批評をもらって、さらに磨き上げていく。


次に、石井先生が研究しているタンジブル・ビットの話。
パソコンは便利な計算機だ。何でもできる。でも、ブラックボックスで、インテルのCPUを見ても中で何がおきているのかわからない。
そろばんも計算機だ。足し算引き算、掛け算割り算もできる。そして、見えない部分は何もない。入力も出力も、メモリも演算もすべて目の前で見える形で行われる。実感できる。情報を扱うときに「タンジブル」(さわれる)であることが新しい世界を開くんじゃないか、というのがタンジブルビットの考え方。


そして、タンジブル・ビットなアプリケーションの実例。

  • ビンのふたを開けると音楽が流れ出すMusic Bottle
  • ビンのふたを開けるとその日の天気を音(晴れなら小鳥のさえずり、など)で教えてくれるBottle
  • 原始的な構造と、単純な動きをする部品、そして簡単なルールを複数組み合わせてつくるボトムアップ的ロボット
  • コンピュータネットワークのどこに問題があって、どう手をうてば改善されるかを触りながら顧客とシステムベンダが一緒に答えを探すシステム
  • 自分の上に何が乗っているかを「わかる」ボード
  • 物に触れると、その色を覚えて、自由に絵が描けるブラシ。(世界がパレットになる)

みんな、とーっても面白かったんだけど、文字にするのがすごく難しい。


今までのコンピュータはDigital。数字の世界。
タンジブル・ビットはPhysical。触ってわかる。
そしてこの2つは対立するものではない。DigitalとPhysical、それぞれの強みがある。それを多重継承したものがタンジブル・ビット。


そしていよいよ、仕事の話。


何が駆動するのか。
エンジニアだと「テクノロジー」ドリブンな人もいるだろう。でも「良い物をつくればいい」とエンジニアががんばっても、今の時代なかなか売れない。
ニーズに答える「アプリケーション」を作るべきだ、という人もいる。
でも、もっと大きなものがある。それは「ビジョン」だ。僕はビジョンを作っている。そして、そのビジョンを表現するために、上に挙げたようなアプリケーションを作っている、と石井先生。
テクノロジーの賞味期限は1年、アプリケーションの賞味期限は10年、ビジョンの賞味期限は100年。


重力に抗うには。
人と同じことをしない。
新しい問い、誰も発したことがない問いを発することが大事。
出すぎた杭は誰にも打てない。


最後に、未来の話。
Future is not to predict but to invent. - Alan Kay
未来は予言するものではなく、それぞれが作り出すもの。いろいろな未来があるべきだ。
そして、未来を作るには燃料がいる。
燃料とは以下のもの。

  • 飢餓。知的に飢えること。
  • 屈辱。石井先生も国際学会で英語がうまくしゃべれないという屈辱を味わって、猛勉強して英語をマスターした。
  • 誇り。誇りがなければ生きていけない。
  • 情念。燃やす。アラン・ケイが石井先生をMITに呼んだのは、ClearBoardという技術があったからではなく、パッションがあったから。
  • 問い。Why?という質問が一番大事。How?ではなく。
  • 哲学。Why?を5回繰り返すとそれは哲学になる。


「私を動かすのは、死です。2050年には、私は死にます。そして申し訳ないけど、2100年には、若い皆さんも死にます。それから100年後、2200年の人々にどんな思い出を残してあげるか、そのことが私を動かしています」


最後にちょっとだけ質疑応答
Q.モチベーションをコントロールするにはどうしたらいいですか?
A.パッションやモチベーションはコントロールするものではない。燃やすもの。なぜなら競争だから。弱い人もいる。でも全員は救えない。

Q.先生はほかの分野からインスピレーションを受けることはありますか?
A.もちろん。イノベーションは真空から生まれるものではなく、今すでにあるものを組み合わせて、そこからインスパイアされるもの。逆に言えば、世界はメタファーで満ちている。


石井先生、かっこいい。すごすぎて何を真似したらいいのかわからない。
あ、プレゼンは高橋メソッド的で、文字のページは1画面にでっかく「抗重力」とか「母」とか表示してた。それ以外のページは画像と動画。まずはそれ真似しよう。


明日いきなり「ビジョン作れ」って言われても、作れない。
でも、今やっている小さなことが、いつかテクノロジーになり、アプリケーションになり、そこからインスパイアされてビジョンを形作ると思って、今日もPHP勉強しよっと。